ご相談者
青木さん(52歳・男性)
若い頃から海外での経験も豊富。紅茶を飲みながら物思いにふけるのが日課で、派手な色のシャツを好む洒落者です。しかし最近は肩の痛みで腕が上がらず、シャツに袖を通すことさえ億劫だと嘆いています。

院長先生、こんにちは。
最近、急に肩の調子が悪くて…。
特に右腕なんですが、ふとした時にズキッと痛みが走って、上まで上がらなくなってしまったんです。


シャツやスーツを着るのも一苦労で、夜中に寝返りをうっただけで痛みで目が覚めることもあって…。
これって、よく聞く「四十肩」ってやつなんでしょうか?

それはつらいですね。
腕が上がらない、夜も痛むというのは、日常生活にも支障が出て大変でしょう。
おっしゃる通り、その症状は一般的に「四十肩」や「五十肩」と呼ばれる状態の典型的なサインかもしれません。

やっぱりそうですか。
年のせいだと諦めるしかないのかな、なんて思っていたので…。

いえいえ、諦める必要はありませんよ。
多くの方が経験する身近な症状ですが、実はとても奥が深いんです。
少し詳しくお話ししましょうか。
「四十肩・五十肩」の正体は“関節のケガ”

まず大切なことからお話しすると、「四十肩」や「五十肩」というのは、実は正式な病名ではないんです。

えっ、そうなんですか!
てっきり病名だと思っていました。

40代や50代の方に多く見られることから付いた俗称なんですよ。
医学的には「肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)」と呼びます。
これは、肩の関節を袋のように包んでいる「関節包(かんせつほう)」という組織に炎症が起きている状態です。

炎症…。
なんだか難しそうですね。

イメージしやすく例えると、関節の中がひどい擦り傷になっているようなイメージです。
そして、このケガには治っていく段階があるんです。

段階があるんですか?

はい。大きく分けて3つのステージがあります。
まず、ケガをしたばかりで一番痛い「炎症期(えんしょうき)」。
何もしなくてもズキズキ痛んだり、夜間に痛みが強くなるのが特徴です。
次に、激しい痛みは減るものの、かさぶたが張るように関節が固まって動きにくくなる「拘縮期(こうしゅくき)」。
そして最後に、固まった動きが徐々にほぐれてくる「回復期(かいふくき)」です。

なるほど…。
私の場合は、夜も痛いし、ズキズキするので「炎症期」なのかもしれませんね。
時期で違う!やってはいけないこと、やるべきこと

その通りです。
そして、ご自身の肩が今どのステージにあるのかを知ることが、治療において非常に重要になります。
なぜなら、時期によってやるべきことが全く逆になるからです。

逆、ですか?
痛いけど動かした方がいいのかと思っていました。

それが大きな落とし穴なんです。
例えば、痛みが一番強い「炎症期」に無理やり腕を動かすのは、できたばかりの擦り傷を無理やりこすっているようなものですよ。

うわぁ…それは痛いし、治りが悪くなりそうですね。

まさにその通りです。
この時期は、炎症を抑える注射や鎮痛剤などで痛みをしっかりコントロールし、肩を休ませることが最優先です。

じゃあ、いつから動かせばいいんでしょうか。

激しい痛みが治まり、「拘縮期」に入ってからです。
傷の痛みが引いてきたら、今度は固まってしまった関節をほぐすために「運動療法(リハビリ)」を開始します。
これが、動きを取り戻すための鍵になります。
ただ、治療には数ヶ月から1年以上かかることもあります。焦らないことが大切ですよ。
リハビリの鉄則は「痛みを我慢しない」

リハビリと聞くと、なんだか痛いのを我慢して頑張る…というイメージがあります。

それもよくある誤解ですね。
四十肩のリハビリの鉄則は、「痛みを我慢しない」ことです。

我慢しなくていいんですか?

ええ、むしろ我慢はしないでください。
痛みをこらえて無理に動かすと、せっかく治まりかけた炎症がぶり返してしまいますから。
回復の鍵は、実はご自宅でのセルフストレッチを毎日続けていただくことなんです。

ただ、自己流でやってしまうと、かえって肩を痛める危険もあります。
そこで当院では、体の動きの専門家である理学療法士が、安全で正しいストレッチの方法をしっかりお教えします。
「痛いけど気持ちいい」と感じる範囲で続けていただく、そのための正しいやり方を専門家がサポートする。
それが回復への一番の近道ですよ。
それ、本当に四十肩ですか?

ここまで四十肩のお話をしてきましたが、実はもう一つ、非常に大切な注意点があります。

なんでしょう?

それは、「肩が痛くて腕が上がらない」という症状が、必ずしも四十肩とは限らないということです。

えっ、違う病気の可能性もあるんですか?

全く違いますし、治療法も異なります。
例えば腱板断裂の場合、手術が必要になることもあります。
もしこれを「四十肩だろう」と自己判断して放置すると、症状を悪化させる危険があるのです。

それは怖いですね…。

だからこそ、まずは整形外科で「あなたの肩の痛みの本当の原因は何か」を正確に診断してもらうことが、何よりも不可欠なのです。
まとめ:専門医への相談が、回復への最短ルートです

「年のせい」の一言で片付けてしまうところでした。
同じような痛みでも、原因が色々あるんですね。
まずはちゃんと診てもらうことが大事だとよく分かりました。

その通りです。
当院では、まず診察とレントゲンで肩の状態を詳しく拝見します。
骨だけでなく、筋肉の腱や関節を包む袋(関節包)の状態までしっかり調べるために、必要であれば提携している医療機関でMRI検査を受けていただくことも可能です。
そうして痛みの本当の原因を正確に突き止めることで、初めて、あなたの今の症状と時期にぴったりの治療方針を立てることができるのです。

ありがとうございました。不安が晴れました。
スケジュールを確認して、整形外科に相談してみます。
まずはちゃんと診てもらうことが大事だとよく分かりました。

ええ、それが一番です。
「年のせいだから」と諦めたり、自己判断で放置したりしないでください。
つらい痛みから解放されるための最も確実な第一歩は、専門医に相談し、正しい診断を受けることです。
それが、回復への一番の近道ですよ。
【まとめのアドバイス】
腕が上がらない、服の着替えがつらい、夜中に痛みで目が覚める…。
そんな肩の症状にお悩みではありませんか?
「どうせ四十肩だろう」「そのうち治るだろう」と自己判断してしまうのは大変危険です。その痛みの裏には、治療法が全く異なる別の病気が隠れている可能性もあります。つらい症状を長引かせず、一日も早く快適な生活を取り戻すために、まずは整形外科の専門医にご相談ください。
正しい診断と、あなたの状態に合わせた適切な治療こそが、回復への最短ルートです。
関連リンク
肩の痛みの原因となることの多い病気について
#石灰性腱炎
原因:40歳~50歳以降の中年女性に多くみられ、肩腱板内にカルシウム結晶が沈着し、石灰が腱板の外の滑液包に出て、炎症が生じ、急に肩の痛み、運動制限を起こします。
症状:夜間に突然生じる激烈な肩の痛みで始まることが多く、夜間痛のため不眠や肩関節動かすことができなくなります。また石灰が大きくなり、肩を上げるとき、肩峰にぶつかる(肩峰下インピージメント)ときに、痛みを認めます。
診断:レントゲン検査や、CT検査にて腱板部分に石灰沈着を確認します。
#腱板断裂
原因:肩関節の周囲のインナーマッスルの骨の付着部である腱板が損傷することが原因となります。
腱板の損傷は、老化によるものや、使いすぎや外傷によるものがあります。
腱板に穴が開いてしまった完全断裂と腱板の一部がはがれてしまった部分断裂があります。
症状:断裂部位の肩の痛みや肩関節の不安定な動き、腕を伸ばしたり、ひねる際に、肩の痛みを認めます。
夜間に肩や腕を下げると痛みが増すことが多く、対策としては、寝る際に腕を胸に乗せるように、クッションを腕の下に入れるなどの対策が有効です。
診断:セルフチェック法、ドロップアームテストなどがあります。
レントゲン検査では、肩峰と骨との間が狭くなります。 MRIやエコーにて、腱板断裂を確認します。
治療:
・保存療法 痛みに対しては、消炎鎮痛剤内服や滑液包内注射。
・リハビリ、軽症例では肩甲骨の動きを良くして、自然修復を期待する目的で行う方法と自然修復や手術が不可能な場合は残存した腱板の機能をうまく使う、腱板機能訓練や可動域訓練を行います。
・手術するほうがメリットが多い場合は、関節鏡下に断裂部を修復する手術が選択される場合があります。
