おばあちゃんの話

うちの母は、ばーちゃんではなく「あーちゃん」です。スポーツが大好きでいつも動き回っていました。

自分は40歳の男性。2つ下の妻、二人の子供と共に、父親、母親と同居している。今時、親と同居というとめずらしいかもしれないが、昔からの風習が残る田舎ではまだある話だ。

自分の母についての話をしたい。母の呼び名は、家族の中では「あーちゃん」と呼ばれる。
私の子どもが、幼い時にばあちゃんが言えず、「あーちゃん」と呼んでいたのを、母的には気に入っているらしく、我が家ではそう呼ばれるようになった。

うちのばーちゃん=あーちゃん。

今、あーちゃんは65歳。高齢になりかけではあるが、とても元気だ。
若い時から、常に動き回る活発な人で、掃除をしたり、料理や仕事ととにかく何かしている。
ぼーっとTVを見ているなんてことは皆無で、暇があれば「ちょっと走ってくる」という具合で、自分よりよっぽど元気だなと思う。

母の家系も、体育会系で健康な家系。
従妹は、バーベル上げで全国大会にいったり、母も若い時はバスケットボールで鍛え、県大会に出ていた。
父と、結婚してからもスポーツは続け、父の趣味である登山を一緒にしたり、夫婦でソフトバレーを週に二回行っている。

3年前のことだが、じいちゃん、あーちゃん、子どもを含め家族みんなで白山に登った。
登りに6時間。山頂付近の山小屋に一泊し、ご来光を見に行くという計画を立てた。

登山では元気な子ども、じいちゃん、あーちゃんが続き、私たち夫婦はバテバテという展開だった。
それでも、山頂近くの山小屋で真っ赤に染まる沈みゆく夕陽を見たり、
日の出前から登り山頂で迎えた、日の出は「天国なのかなと思うぐらい素晴らしく、神々しい景色」だった。

そんな元気なあーちゃんであったが、昨年の暮れごろから少し様子がおかしかった。
いつもであれば、常に動いているのだけれども何だか元気がないように見えた。

ある時に、仕事から家に帰ると家の庭でしゃがんでいる。
「どうしたの?」と聞くと、少し照れながら「ちょっと疲れたから休んでいる」とはにかんだ。
ああ、そうなんだ、珍しいなあとその時は気に留めなかったが、どうも心に引っかかった。

妻とその話をすると、同じ違和感を感じていたらしい。
「本人は、疲れやすいって言っているけど、体がちょっと悪いんじゃないか?」
「病院で、見てもらった方がいいと思うのだけどどうだろうか?」という話になった。

実は、あーちゃんはとても病院嫌いだ。
正確に言うと、嫌いというよりは「自分は健康だから、行かなくていい」と思っている節がある。
病院行ったら?の言い方を間違えると、余計にいかないかもしれない。

そんな時、妻から話のついでにあーちゃんに
「OO診療所って近くにあるでしょ?この間、子どものワクチン接種接種に行ったら、先生は穏やかな人だし、看護婦さんも人が良くって対応がよかったわー」
「へえーそうなんだ。評判がいいのね。」なんて話をしてくれたそうだ。

それから、1日ほどであーちゃんは父に頼んで、その診療所を受診した。
すると、すぐに異変を感じたらしくその院長から「いいですか?紹介状を書きますので、すぐにこれから行ってくださいね。大事なことなので、お願いします」と告げられた。

嫌な予感は、当たってしまった。
その足で総合病院に行った結果「いつ倒れてもおかしくない状態で命に係わることなので、明日ペースメーカーの手術をします」と説明があったそうだ。
父は、だいぶ気が動転しており帰ってくるとひどく落ち込んでいた。
自分たちもびっくりはしたが、妻の父が同じくペースメーカーの手術をしていて、「うまくいくと思うから大丈夫だと思う」と説明した。

翌日昼。手術前に、母に一度連絡し終わるまでの何とも長い時間を過ごしす。
夕方近くに、父が病院から戻ってきて「無事、手術は成功した」の連絡があった。
急にいろんなことが決まって、本人ももちろん不安だったと思うが、家族で少しほっとした瞬間だった。

一週間後、あーちゃんがいなかった我が家は少し欠けている感じだったが、本人が戻りいつもの雰囲気に戻った。
子どもからは、「体脂肪を図る今うちにある体重計は乗ったらあかんらしいよ」とネットでペースメーカーのことを調べていたようだ。
翌週、体脂肪のはかれる今までの体重計は、アナログな針が回る体重計に変わっていた。

帰ってきて、傷が収まるまではおとなしくしていたが、趣味のソフトバレーは最近復帰した。
医師からの注意事項をよく聞き、今まで好きだったスポーツができることをうれしがっているようだ。
そして、調子が悪かった時より、元気をしっかりと取り戻し顔色も明るい。

父との登山も、暖かくなってきたら徐々に再開するようだ。
できるなら、また家族みんなで山に登るのもいいかと思っている。あーちゃん、お帰りなさい。

40歳の息子から、あーちゃんへ。